恵比壽塵報(略称/恵比塵☆YEBIJIN)
YEBIsu_Journal Ironical News columns : Japan Intelligence Network
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[08/12/24]
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■[恵比壽塵報]39号:ブラキストン線(その1)
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 ブラキストン線 その1

 学生時代に、田宮二郎氏が司会をしていたテレビのクイズ番組があった。
正解すると、5×5の升目の自由な番号を自分のものにして、他の回答者の番 号を両端で挟むと挟まれた番号も自分のものとなり、一番升目の多い回答者が その後に賞金の付いた特別問題に回答するとその賞金がもらえるものであった。
殆ど同工番組は今でもあるらしい。

 その最終問題の正解賞金は、50万円だったか70万円の問題であった。金 額は忘れたが最高金額ではなかった、問題の文言も忘れてしまったが、今でも その正解を間髪を入れずにテレビの前で回答が出来たことは覚えている。

 その問題はというと、答えから察するに以下のような設問だったのであろう。

 「北海道と本州の間には、線があります、その、」

 バシッ!「はい!ブラキストン線!」

 はあ、はあ、やったぜ!と思ったがテレビの前で回答しても賞金が貰えるわ けではない。確かそのテレビに出演した回答者は答えられなかったのだと思う。
それでよけいに「もったいないことをした」と勝手に記憶したのかも知れない。
 ブラキストン線、それはいつどこで覚えたのだろうか、経緯はよく判らない が、高校時代の「地理」か「生物」か「地学」あたりで覚えたのだろうと思わ れる。

 「北海道と本州の間には、線があります、その線は生物学的に重要な、」
 バシッ!「はい!大間のマグロ!」ブッブー。
 「大間のマグロの側線!」ブッブー、線が付けばいいというものではない。
 「●●国の密航セン!」ブッブー、惜しい!惜しくないってば。

 ブラキストン線に戻る。
 これは、地球上に何本か引かれている生物分布上の境界線のうち、本州と北 海道の間に引かれた境界線をいうのである。その命名者の名前を付けているの です。
 わたしはその命名者は日本人ではないのかと思っていた。黒岩博士というの ではないかと疑っていた。なんとなく大時代掛かった人名を感じませんか。そ ういう方(黒岩)のラテン語表記をしてそれをもう一度カタカナにすると、黒 岩→BlackRockとかBlackStoneとかから、ブラキストンという発音になったの ではないかと想像していたのである。、ラテン語には少し不案内なので、読者諸 兄にも判り易いように、ラテン語ではなく英語にしてしまったが、つまりはそ ういうことである。少しイントネーションで調子を作って、ブラッキというと 北海道ではなじみのある発声である。冬場のストーブの必需品。石炭やマキを 挟んだりするブリキの大きなピンセット状の道具をデレッキというのである。
「デレッキ」と「ブラッキ」なじみの生活道具と似ていますね。
 ブラッキストン、、なるほど、これなら北海道の人でもカタカナになってい ても覚えやすい。
 この様に想像するのは、一度外国語表記をしてもう一度日本語に直して間違 えてしまった学名が実際に存在するのである。それは例えば、「蝦夷春蝉(エ ゾハルゼミ)」。これは元々は「江戸春蝉:EdoHaruSemi」だったのが、リン ネや牧野博士の時代は手書きが主流(それも達筆)だったので、EdoがEz oに見えてしまってそのまま登録されてしまったのである。というのを聞いた ことがある。そして、「エゾ××」という学名は多いのである。その理由は、 エゾハルゼミは日本国中で鳴いているので、北海道特有の生物(昆虫)ではな いが、「蝦夷(エゾ)」つまり北海道にしか自然繁殖していない生物が多いか らである。

 ね、このように、北海道にしか生息しない動物相と本州にしか生息しない動 物相が明快に分かれることを発見してそこに線を引いてみたのが、イギリスの 動物学者ブラキストン氏なのである。与太話ではないことをわたしの「地の文」 で説明しても信じていただけないであろうから、きちんとパソコンのおまけ辞 書で引くと以下のように書いてあります。

    動物分布上本州と北海道の間に引かれる生物分布上の境界線。
    一八八〇年イギリスの動物学者ブラキストンらが鳥類の分布か ら提唱。北海道と本州の間の津軽海峡を旧北区中の北極区系と 東アジア系の動物の境界線とみなした。ヒグマ・シマリスの南 限、サル・クマ・カモシカなどの北限。
    (国語大辞典(新装版)小学館)

 あ、「それはわかるが、『地の文』がわからない?」
 しょがねな、「『地の文』とは、文章や語り物で、会話や歌を除いた叙述の 部分」をいうのです。たまに辞書も引いてみるとよろし。つまり、「わたしの 『地の文』で説明しても信じていただけない」という意味は、「わたしの書く 説明では信じるに値しない」という意味です。あれ??そうだったのか。。。

 最近、WAT氏から柿の話で、
北海道には、柿がないのは、不思議です・・・。」というメールがあった。
 それで、ブラキストンを思い出したのであった。つまり、ヒグマやシマリス の南限が本州までに及ぶか、サル、クマ、カモシカが海を渡って北限を北海道 にまで延伸すると、北海道にも柿は存在してしまうことになるのです。

  ♪本州(ほんしゅ)と蝦夷(えーぞ)の間には、深くて暗い海がある
  マグロが渡る海なれど、エンヤコラ、ヒグマは渡らない

 北海道に柿がないのは、ヒグマが柿を食べないからかもしれませんね。
奥の深い結論だと思いませんか。

  斗南の北の海峡に ケモノが渡れぬ一本線
  ブラキストン線あるんだよ 見えないけれどあるんだよ
 (斗南と書いたのは会津藩が一時移封(いほう)された現在の青森県の斗南 を無理に意識しています)

 金子みすゞはこうは詠わなかったが、ここで詩もどきを書いたのは、かの松 岡正剛氏に「ブラキストン」という言葉を使用したフレーズがあった事を知っ たからです。高校時代の教科書にあったかも知れない「ブラキストン線」とい う単語を、その後に文章の中の活字で見つけたのは同氏の著作物でしか邂逅し たことがない。
 わたしはまだ読んだことがないのですが、北海道出身の詩人に吉田一穂とい う方がいらっしゃいました。この吉田一穂氏の事を「ブラキストン線の向こう 側の詩人」と名づけていたのです。嗚呼。

    ぼくはぼくで、早くから「ブラキストン線の向こう側の詩人」とい うふうに『遊学』で名付けていた。北海道上磯に網元の子に生まれ、 札幌北海中学で読書に耽っていた詩人だったからである。ブラキス トン線とは津軽海峡の地質学的別名のことをいう。西と東を重ねた というより、北にいて東西南北を引き寄せた詩人なのである。
 この文章は、セイゴオ氏の『千夜千冊』の《第千五十三夜【1053】》で、吉 田一穂氏の著作を語る文章の中に現れています。

 そして、わたしは気づくのです。セイゴオ氏は「ブラキストン線・・・」を 『遊学』という本の中で名づけていたのか、『遊学』をもっぱらとして、『遊』 や『プラネタリー・ブックス』シリーズの刊行中に名づけていたのかです。
 もしも、『遊学』であれば中公文庫で2冊になった本がある。手元にある。 『プラネタリー・ブックス』であれば、全巻手元にある。
 何故その時に気づかなかったのだろうか。それとも気づいてもセイゴオ氏の 目も眩む文章の中で、まぎれてしまったのだろうか。
 わたしの記憶の森は[松]枯れ病なのか。それとも、「落花は枝に還らずと も」地中に深く沈んでいて、『千夜千冊』の文章で見つけた時に、やっと双葉 が出てきたのか。
 御伽噺の猿蟹合戦では柿の種か柿の木が育って実がなるのであるが、話を簡 単にする為に「桃栗三年柿八年」などとも説明はしていない。実生(みしょう) の木が育つという事態は、斯くの如し。わたしの記憶の彷徨史をたどってみて も、ブラキストン線はほぼ十年に一度のサイクルで、地下茎から地上に芽を出 すのであった。

 つづく。

記憶の森は、会津を学び綴り続ける「会津学」主宰者、カンケさんの ブログ名の一部です。
ブログ■記憶の森をあるく(http://kanke.cocolog−nifty.com/)
「落花は枝に還らずとも」は、会津藩士・秋月悌次郎の生涯を綴った 中村彰彦氏の小説『落花は枝に還らずとも』の書名です。

09/04/11欠字改訂。

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一部に苦味の混じる表現がありますがそれは風味です。毒ではありませんので、そのままご賞味下さい(笑)