恵比壽塵報(略称/恵比塵☆YEBIJIN)
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[10/02/2010/02/18
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■[恵比壽塵報]100号:『火の用心』《からむし織見本市開催記念》
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 たくみさんは、農業生活をするために奥様と就学前の2人の子供を連れて、 昭和村に就農しました。ご夫妻とも村の出身者ではありませんが、移住先とし て昭和村を選んだのです。08年の事でした。そして09年には第三子誕生。

 子供は全部女の子です。一番上のたまちゃんは、今年は数え年で6歳です。

 たくみさんは、昭和村には昔ながらの風習(年中行事)が残っている事に気 付きました。そのひとつが『ひのようじん』です。

 全国各地でも新年にはいろいろな「○○初め(ぞめ)」という行事がありま す。例えば「買い初め」とか「書初め」とかはよく聞く事で今でもあります。

「書初め」は、安直な辞書で調べてみれば
 書初め:一月二日に恵方に向かってめでたい意味の詩歌成句などを書いた

 などと記載されています。どこかのコンビニが節分の行事として「恵方巻」 というのを2、3年で全国的に広げてしまいましたが、「恵方」は特別なこと ではなく昔の行事の所作には元々付いてまわっていたのです。

 奥会津には、その書初めのひとつのかたちとして、特にある年齢の子供が 『火の用心』と書いて近所に配ってあるく行事があります。

 なんだってめんげー子めらだこと
 たくみさんが、たまかづ(たまちゃんとかづちゃん姉妹)を連れて外に出る と、見かけた人は声を掛けます。

 昭和村では、子供の数がどんどん少なくなっています。つまり、若い人が少 なくなったのです。もえちゃん(末妹)はまだ歩けませんが、たまちゃんとか づちゃんは村のどこを歩いていても声を掛けられます。

 なんだってめんげーな、
 たまちゃんは、なんぼになった?
 これは、「歳は幾つか?」という問 いかけです。

 はい、こんど6歳になります
 たくみさんの応答にあわせて、たまちゃんは右手の人差し指を開いた左手の平に添えるジェスチャーもしたかも知れま せん。
 それはした、こんだの『火の用心』だ
 「それはした」とは、それは目 出度い、といったほどの感嘆詞のようなものです。

 つまり奥会津の『火の用心』の行事というのは、特に6歳になる子供が「火 の用心」と書いて、その紙を近所に配る行事なのです。

 たくみさんは、年末に、たまかづを連れてオオハラ堂に行きました。そこで、 筆、すずり、墨や、『火の用心』を書くための用紙を調達しました。とはいえ、 商品として「火の用心用紙」などという完成状態では売っていません。障子紙 や習字用の半紙などを切断して使うのです。その大きさは店の人に教わりまし た。
 そして、親切なオオハラ堂のおばさんは、

 ちゃんと『六才』と書ぐだぞ!
 と、言いました。

 『六才』とは『無災』につながるという言霊があって初めて、本来の火の用 心のお札(おふだ・護符)となるのです。

 おらいぇさもまわってくろよー
 (「火の用心」と書いた紙を)わたしの家にも立寄って(配って)下さい、 という意味です。

 昭和村では、近所に6歳になる子供が住んでいるという事態が殆どなくなっ てしまったのです。正月に家族連れで帰郷したなかの孫や曾孫が、たまさか6 歳だった、というような低い確率でしかなくなったのです。

 筆者の子供たちも、昭和村で「火の用心」を書きました。およそ16〜18 年前の「火の用心」です。肝心の年齢が書かれていないのでした。しかし、近 所に配って子供たちはお小遣いを貰いました。

 『無災』である事という由来が忘れられてしまってしまいましたが、6歳の 子供の書いた「火の用心」の紙が、護符となったおもかげは残っているのです。 近所や親戚の家を訪ねて「火の用心」を配ります。訪ねられた家では、誰が来 るかはわかっているので、いただく護符へのお礼の金銭やお菓子などを準備し て待っているのです。

 6歳は小学校への就学年齢です。
 小学校に入る前に、筆記具の使い方を習わせるという意味もあったのでしょう。
 そして、昔は就学年齢ということは別の大きな理由があったのではないだろ うかと思います。小学校(それ以前の寺子屋とか?)へ入る為の準備として、 幾ばくかの蓄え(現金)が必要となるのです。教科書、筆箱などなど。教科書 などは近所の年長の子供からお下がりしてもらった事もあったことと思います。

 およそ50年以上前の頃の『火の用心』のお布施(あがり)は、親が取上げ たはずです。取上げたとはいえ、その子供のために使ったのです。『火の用心』 は、地域集落内の自然発生無尽講のような行事ではなかっただろうかと考える のです。
 つまり、その年(就学年齢)に、地域内で現金を融通しあう機能をはたして いたのではないかという見立てです。昔はどの家でも当り前のように子供は沢 山いたので、結(ゆい)のような貸し借り関係の仕組みを作らなくともお互い 様で済まされた(貸し借りの帳尻は結果として一致した)のではないかと思う のです。

 もともとは、護符(お札(ふだ))として宗教者や山伏とか行者とか少し得 体の知れない訪問者だったのかもしれない。そのお布施の方式を、奥会津は年 中行事のシステムとして組み込んだのです。

 「火の用心」だけでは単なる注意喚起のお札ですが、6歳の子供しか発行で きない特別な護符として、かつ、貰う人にも喜んでありがたがっていただくた めに『無災』をおまじない(仕掛け)を考えついた先人がいらっしゃたのでは ないか。
 近所付き合いで経済問題を前面に出すことなく、思いやりと祈りの風習に遷 移させてしまったのです。それは、お寺のお坊さんとか篤志家とか呼ばれるそ ういう人が思い付いて根付かせたのではないかと思うのです。

 まさに、『火の用心』は奥会津の人びとの心のやさしさと奥ゆかしさをつな ぎ続けた無形文化財といえるのではないでしょうか。本当でしょうか。

 昔、喰丸に坊主さまがいらっしゃった。他所から流れついた坊主さまだった か、風来の徒でお寺に棲み付かれたのかそのあたりはよく判らない。酒好きの 坊さんだったと聞いたことがあります。「喰丸坊主」と呼ばれていたことも聞 いたことがあります。これはさほどの侮蔑感ではなくむしろ、愛称としてのあ だ名だったと思います。酔ってどこかの堀(小川)に落ちて亡くなられたので はなかったか。この坊主さんは、粋狂(酔狂)でかどうかは不明であるが、訪 ねた家で護符(梵字とかそういうものか)を書いて「配れば布施がもらえる」 と、その家の子供へ小遣い代わりに護符を渡してあげたという事を聞いた事があり ます(気がします)。心優しい、風来の徒の訪れも、ごく狭い地域の生活の潤 滑油としての機能をはたしていたのではないでしょうか。少し話がずれてしま いました。

 この『火の用心』の風習はどこまで広がっていたのかはわかりません。只見 町にもあるらしい。いつごろ始まったのかも知らない。調べていくとおそらく 書けなくなります(笑)。

 それで、こんな噴飯ごとを書いていいのか!
 ほんとに、すみません。


左は「六才」のない「火の用心」、右は左上に「六才」とある。
左は恵比塵編集部の柱、右は「からむし織見本市」会場

《付記》
 たまちゃんの「火の用心」の現物(本物)は、恵比寿で開催中の「からむし 織 見本市」会場に貼られています。ご覧下さい。恵比塵が仕掛けたほんのさ さやかなたくらみでした(笑)

※本記事は、《昭和館/茶飲みばなし》に発表した文章をリメーク(使いまわ し)しました。
※発言部分が、正調の奥会津昭和弁になっていないかもしれません。
※イントネ ーションを含めて、正しい発声を確認したい人は、直接現地(昭和村)においでください。

公開時一部伏字と、引用記事以外の本文文章を若干改竄しました。
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雑誌:会津学研究会
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■著者:佐藤孝雄
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会津学 Vol.5
発行元
奥会津書房 (0241-52-3580)
2月21日(日)です

『佐藤孝雄のじねんと録』
雑誌:会津学研究会
奥会津・昭和村
開催中です 応援サイト
会期期間中無休
2010年 2月16日(火) 〜 3月14日(日)
11時から19時 (開催初日のみ13時から)
会場 エビス・ギャラリー コウゲツ

主催 福島県 昭和村
企画制作:恵比壽塵報 Copyright Japan Intelligence Network